学生寮篇 その七 『南へ北へ』
『旅の宿』
♪浴衣のきみは尾花(すすき)の簪(かんざし)♪
旅愁を誘う風呂上り、その遅れ毛に汗ひとしずく
私なりの、『旅の宿』のイメ-ジです。
「結婚しようよ」を、毎晩のように歌っていたあのころ。
良きにつけ悪しきにつけ、世の中は『沖縄返還』に湧き、
パスポ-ト不要でいける沖縄は、ますます人気となります。
梶と仲間たちは、その波に乗りました。
旅の恥は掻き捨てのもうひとつの意味もふくめ。
それは、梶と私との賭け。
どちらが早く「男」になるか。
つまらない見栄の意地の張り合い。
受けて立つ気はさらさらありませんでしたが、
あわよくば、、、。色気が無いといったら嘘になる。
奥田との北海道旅行に、一縷の望みを。。
7月1日に『旅の宿』がリリ-スされ、旅ム-ドに拍車がかかります。
ラジオからテ-プレコ-ダ-に録音して、
音楽雑誌に掲載された『旅の宿』の楽譜とにらめっこ。
拓郎が弾く変則アルペジオをコピ-して、私もよく弾いていました。
梶はつくづくと、
”上手くなったなぁ、感心するぜ”
言ってくれる。
”北海道はいいだろうな。旅の宿は北海道のものさ”
”沖縄の旅の宿もいいんじゃない?”
私は、思わせぶりに返す。
”おたがいがんばろうぜ!!”
開けっぴろげに大声で笑って、梶先生は出ていった。
夢と希望と好奇心と時間。
そして、お金。
今回の旅の宿のために、一生懸命アルバイトに励みました。
お中元シ-ズンに欠かせない、軽自動車での宅配サ-ビスです。
ノルマはありませんでしたが、やればやるだけお金になる。
知らない土地なので、地図を片手に一軒一軒探しながらの配達はきつかった。
しかし、仲間がいた。
梶も奥田も私も寮生仲間たちも、夜遅くまで、ドロドロになりながら働いた。
一日の仕事がやっと終わったあとのビ-ルは、本当にうまかった。